この記事の目次(8項目)
合格基準は3層構造——何を満たせば合格か
中小M&A資格試験(仮称)の合格基準は、3層構造が現状案として示されています。第1層が総得点70〜80%程度、第2層が科目別の合格最低基準50%程度、第3層が倫理・行動規範に設定される禁忌肢です。3つのうち1つでも満たさなければ合格に届かない設計であり、総得点だけで合否が決まる試験とは戦い方が変わります。加えて、立ち上げ期には試験免除を設けない想定が示されているため、保有資格や実務経験によって特定科目を回避することもできません。以下では設問60問程度、M&A実務35〜40%、倫理・行動規範25%、財務・税務20〜23%、法務17〜18%という現状案を前提に、各層が得点にどう効くかを具体的に見ます。
第1層:総得点70〜80%は何問にあたるか
第1層の総得点70〜80%程度は、設問60問程度という現状案に当てはめると42問から48問にあたります。幅が6問分あるため、上限側の48問を目標線に置くのが安全です。この層だけを見れば、配点の大きい科目に時間を寄せるのが最も効率的です。M&A実務と倫理・行動規範の2科目で全体の60〜65%を占めるため、この2科目の正答率を10ポイント上げると総得点は6ポイント前後動きます。一方、法務の正答率を10ポイント上げても総得点への寄与は2ポイント弱にとどまります。総得点だけを見るなら、法務に時間を使うのは非効率だという結論になります。第2層がなければ、その戦略で正解でした。
第2層:科目別50%を問題数に直すと何問か
第2層の科目別最低基準50%程度を問題数に直すと、科目ごとの「割ってはいけない本数」が見えます。出題割合の中央付近を取り、M&A実務22問、倫理・行動規範15問、財務・税務13問、法務10問と仮に置くと、下限は順に11問、8問、7問、5問です。合計すると31問で、総得点でいえば約52%にすぎません。つまり全科目でぎりぎり下限を満たしても、第1層の70〜80%には遠く届きません。第1層と第2層は別の方向を向いた基準であり、どちらか一方だけを満たす学習では合格に届かない構造になっています。なお科目ごとの設問数そのものは公表されておらず、この内訳は出題割合から導いた計算例です。
総得点75%でも不合格になり得るのはなぜか
具体例で見ます。ケースAは、M&A仲介会社の実務家です。M&A実務20/22、倫理・行動規範13/15、財務・税務8/13、法務4/10とすると、合計45問で総得点は75%です。第1層の70〜80%程度は満たしています。しかし科目別に見ると、財務・税務が61.5%、法務が40%です。法務が下限の50%を下回っているため、第2層で不合格になり得ます。総得点で75%を取り、目標線の48問まであと3問という位置にいながら、配点が最も小さい法務1科目で止まる。これが「捨て科目がつくれない」という表現の具体的な中身です。
ケースBは税理士です。財務・税務12/13、法務7/10、倫理・行動規範11/15、M&A実務10/22とすると、合計40問で総得点は約67%です。科目別では財務・税務92.3%、法務70%、倫理・行動規範73.3%と3科目は下限を大きく超えていますが、M&A実務が45.5%で下限を割っています。この場合は第1層も第2層も満たしていません。専門科目で満点近くを取っても、配点35〜40%のM&A実務が半分を切ると、総得点そのものが押し下げられるためです。配点の大きい科目の下限割れは、第2層だけでなく第1層にも同時に効きます。
ケースCは、全科目を平均的に仕上げた受験者です。M&A実務16/22、倫理・行動規範11/15、財務・税務9/13、法務7/10とすると、合計43問で総得点は約72%、科目別は順に72.7%、73.3%、69.2%、70%です。突出した得意科目はありませんが、第1層と第2層を同時に満たします。ケースAは総得点75%で届かず、ケースCは72%で届く。総得点が3ポイント低いほうが合格に近いという逆転が起きるのが、この基準設計の要点です。学習の目標は「合計点の最大化」ではなく「全科目が下限を超えた状態での合計点の最大化」になります。
第3層:禁忌肢は得点と別の軸で効く
第3層の禁忌肢は、得点とは別の軸で働きます。禁忌肢は倫理・行動規範に設定する方針が示されており、複数の設問に配置したうえで、一定数を選んだ場合に不合格とする設計が想定されています。設問数と閾値は公表されていません。公表サンプル問題では、反社会的勢力との関係が疑われる情報を依頼者に伝えずに手続を進める行為が、禁忌肢の例として示されています。ここで問われるのは知識量ではなく、「例外なくしてはならない」と定められた行為を確実に判別できるかどうかです。倫理・行動規範で13/15を取っていても、落とした2問が禁忌肢であれば結果が変わり得るという構造になります。
禁忌肢への対策は、範囲を絞れる部類に入ります。母体が中小M&Aガイドライン第3版であり、禁止の対象として明文化されている行為は限られているためです。利益相反の未開示、秘密保持義務に反する情報の取扱い、依頼者の利益に反する形での直接交渉、専任条項・テール条項の不適切な運用、不適切な譲り受け側の看過、反社会的勢力との関係の看過。これらについて、ガイドラインが「してはならない」と書いているのか、「望ましい」と書いているのかを区別して覚えます。判断に迷う設問では、依頼者への情報開示を止める選択肢と、確認を省いて手続を進める選択肢が、禁忌肢の候補になりやすい形です。
3層構造は学習の順序をどう変えるか
3層構造から導かれる学習の順序は、下から積む形になります。第1に、4科目すべてで50%を安定して超える土台を作ります。ここでは配点の大小を無視し、正答率の低い科目から着手します。第2に、総得点を42〜48問の帯の上側へ押し上げます。ここで初めて配点が意味を持ち、M&A実務と倫理・行動規範に時間を寄せます。第3に、倫理・行動規範のガイドライン原文を読み、禁止行為を条文の言葉のまま覚えます。順序を逆にして配点の大きい科目から始めると、直前期に専門外科目の下限割れが残り、修正の時間が取れなくなります。
下限に対する余裕の持ち方も設計できます。目安として、各科目で50%ではなく60%を仮の目標線に置くと、問題数の少ない科目でのぶれを吸収できます。法務が10問なら、50%は5問、60%は6問です。1問の重みが10ポイントある科目では、本番で1問読み違えるだけで下限を割ります。逆にM&A実務が22問なら1問の重みは約4.5ポイントで、ぶれの影響は小さくなります。つまり配点の小さい科目ほど、下限に対する安全余裕を厚く取る必要があります。配点が小さい科目は、総得点への寄与が小さいのに下限割れのリスクは大きいという非対称性を持っています。
試験免除がないことの影響
立ち上げ期に試験免除を設けない想定であることも、基準の一部として効きます。他資格の保有や実務経験による科目免除がないため、公認会計士であっても財務・税務を受験し、弁護士であっても法務を受験する前提になります。免除制度がある試験では、免除科目の分だけ他科目に時間を寄せられますが、この試験ではその調整ができません。したがって、専門科目で得点を稼ぐ余地は残る一方、専門科目のために確保する学習時間がゼロになることはありません。既知の科目についても、出題範囲の小項目と優先出題項目(●印)に照らして抜けを確認する時間は必要です。
確定していないこと
ここまでの数値はすべて、中小企業庁の検討会資料に示された現状案です。総得点70〜80%程度、科目別50%程度、設問60問程度、出題割合のいずれも、試験案内で確定値が公表されるまで変更があり得ます。本記事の問題数の内訳は、公表された出題割合から導いた計算例であり、科目ごとの設問数そのものが公表されているわけではありません。また合格率については、初回試験が実施されていないため実績が存在しません。合格ラインの実質的な水準を過去の数字から推し量ることは、現時点ではできない状態です。数字を掲げる情報に出会ったら、出典が中小企業庁の公表資料かどうかを確認してください。
総得点70〜80%とは、何問正解すれば良いですか?
設問60問程度という現状案なら42〜48問にあたります。幅が6問分あるため、上限側の48問を目標線に置くと基準の振れ幅を吸収できます。確定値は試験案内の公表待ちです。
総得点が基準を超えていれば合格ですか?
合格とは限りません。科目別の合格最低基準50%程度が第2層として想定されているためです。総得点75%(45問)でも、法務が10問中4問で40%なら第2層を満たさず不合格になり得ます。
科目別基準に引っかかりやすいのはどの科目ですか?
受験者の経歴によって異なります。M&A仲介・FAの実務家は財務・税務と法務、士業はM&A実務の工程知識、金融機関の担当者は仲介契約・FA契約や重要事項説明が穴になりやすい領域です。
禁忌肢を選ぶと必ず不合格ですか?
1つ選んだ時点で不合格になるとは公表されていません。複数の設問に配置し、一定数を選んだ場合に不合格とする設計が想定されていますが、設問数と閾値は2026年8月31日時点で公表されていません。
科目免除はありますか?
立ち上げ期には試験免除を設けない想定が示されています。したがって公認会計士でも財務・税務を、弁護士でも法務を受験する前提になります。確定は試験案内の公表待ちです。
合格率はどのくらいですか?
初回試験が実施されていないため、合格率の実績は存在しません。数字を示している情報があれば、それは中小企業庁の公表に基づくものではありません。実施・結果公表後に本記事を更新します。