この記事の目次(12項目)
  1. 倫理・行動規範は60問中およそ何問に相当するのか
  2. 4科目で唯一、禁忌肢が設定される科目
  3. 出題範囲の母体は中小M&Aガイドライン第3版——公表されている小項目
  4. 行動指針①利益相反の管理——仲介者が双方から報酬を受ける構造をどう扱うか
  5. 行動指針②秘密保持と情報管理——漏らさないことと、伝えるべきを伝えること
  6. 行動指針③直接交渉の制限——当事者同士を先に会わせないという規範
  7. 行動指針④専任条項・テール条項の適正化——期間と範囲が論点
  8. 行動指針⑤不適切な譲り受け側の排除——知ったときに何をするか
  9. 行動指針⑥反社会的勢力との関係遮断——公表サンプルの禁忌肢はここ
  10. 実務の慣行と規範文言がずれるとき、問われるのは規範文言
  11. 科目別最低基準50%と禁忌肢——この科目だけ関門が二重にある
  12. 学習の手順——「してはならない」を抜き出し、理由まで言えるようにする

倫理・行動規範は60問中およそ何問に相当するのか

倫理・行動規範の出題割合は25%(現状案)で、M&A実務に次いで2番目に大きい科目です。試験形式の現状案が設問60問程度であることから算出すると、15問前後に相当します。これは公表されている割合と設問数の想定を掛け合わせた当サイトの算出値であり、科目別の設問数そのものは公表されていません。財務・税務(12〜14問前後)と法務(10〜11問前後)を上回る配点が、専門知識ではなく職業倫理に割り当てられている——この配分自体が、この試験の性格を最も端的に表しています。認定しようとしているのは知識量の多い支援者ではなく、依頼者を害さない支援者だからです。科目別合格最低基準50%程度(現状案)にあてはめると8問前後が必要ですが、この科目については50%を目標にする発想が成立しません。理由は次の節のとおりです。

4科目で唯一、禁忌肢が設定される科目

倫理・行動規範は、4科目のうち唯一、禁忌肢の設定方針が示されている科目です。禁忌肢とは、それを正しいと理解していること自体に問題がある誤答肢のことで、複数の設問に配置し、一定数を選ぶと不合格とする設計が想定されています。設問数と閾値は2026年8月31日時点で公表されていません。ここから導かれる帰結は明確です。この科目には、総得点と科目別基準に加えて、正答率とは別の軸の関門が1つ多く存在します。総得点が80%でも、禁忌肢を規定数選べば合格に至らない可能性がある設計です。したがってこの科目の学習目標は「8問取ること」ではなく「絶対に選んではならない肢を1つも選ばないこと」になります。禁忌肢の仕組みそのものは当サイトの禁忌肢の記事で詳しく扱っているため、本記事では中身——何が禁忌の対象になる規範なのか——に絞ります。

出題範囲の母体は中小M&Aガイドライン第3版——公表されている小項目

この科目の出題の母体は、中小企業庁が2024年8月30日に公表した中小M&Aガイドライン第3版です。出題範囲として公表されている小項目は、使命、仲介者・FAの選定等、基本原則、善管注意義務・職業倫理、広告・営業、品位、法令等の遵守、不適切な個人・組織・反社等との関係、情報管理、その他禁止行為、支援機関向けの基本姿勢です。11ブロックのうち、後半の4つ(不適切な個人・組織・反社等との関係、情報管理、その他禁止行為、支援機関向けの基本姿勢)が禁止行為に直結する領域であり、禁忌肢が置かれるとすればこの周辺です。前半の使命・基本原則・善管注意義務は、個別の禁止行為の背後にある理由を与える部分で、初見の事例を判断するときの拠り所になります。以下、ガイドライン第3版の行動指針を6つの軸に分けて、それぞれ何が問われるかを見ていきます。

行動指針①利益相反の管理——仲介者が双方から報酬を受ける構造をどう扱うか

利益相反の管理は、仲介という業態そのものに内在する構造の問題です。仲介者は譲渡側と譲り受け側の双方と契約し、双方から報酬を受けることがあります。この構造では、一方に有利な助言が他方の不利益になり得ます。ガイドラインが求めているのは、この構造を隠さないことです。具体的には、仲介者として双方と契約する立場であることを両当事者に明示すること、双方から手数料を受ける場合はその旨と算定方法を明らかにすること、そして一方当事者にのみ肩入れした助言をしないことが求められます。試験で問われるのは、利益相反が発生した場面での対応です。誤答肢として作られやすいのは、「取引をまとめるために、一方の不利益になる情報を伝えずに進める」型と、「利益相反はあるが、結果的に双方が納得したのだから問題ない」型です。結果ではなく、開示と説明の手続を踏んだかどうかで判定されます。

行動指針②秘密保持と情報管理——漏らさないことと、伝えるべきを伝えること

情報管理は、公表されている小項目に独立して置かれている論点です。ここには二方向の義務があります。一方は、知り得た情報を目的外に使わず、第三者に漏らさないという守る側の義務です。譲渡の検討自体が従業員や取引先に伝わると案件が壊れるため、情報の範囲と開示のタイミングを管理することが支援者の中核業務になります。もう一方は、依頼者に伝えるべき情報を伝えるという開く側の義務です。この2つを混同すると誤答します。相手方から得た情報だからという理由で、依頼者の判断に直結する不利益情報を伏せる行為は、秘密保持の履行ではなく善管注意義務の違反として扱われます。試験で問われるのは、この線引きです。守秘の対象は情報の出所ではなく情報の性質と目的で決まる、という原則を押さえておくと、初見の事例でも判断できます。

行動指針③直接交渉の制限——当事者同士を先に会わせないという規範

直接交渉の制限は、支援者を介さずに当事者同士が交渉することを制限する取り扱いです。趣旨は、情報量に差がある当事者同士が直接交渉することで、一方が不利な条件を受け入れてしまう事態を避けることにあります。中小M&Aでは、譲渡側の経営者が交渉の経験を持たないことが多く、この制限は依頼者を守るために置かれています。同時に、制限が支援者の都合で使われてはならない、という裏側の規範があります。制限を理由に依頼者が必要な情報にアクセスできなくなる、あるいは他の支援機関に意見を求めることまで妨げられるとすれば、依頼者の利益を害します。試験で問われやすいのは、この制限が誰のために置かれているのかを取り違えた肢です。手数料を確保するために当事者間の接触を遮る、という動機が読み取れる肢は不適切として扱われます。

行動指針④専任条項・テール条項の適正化——期間と範囲が論点

専任条項は、契約期間中に他の支援機関へ重複して依頼することを制限する条項です。テール条項は、契約が終了した後の一定期間内に成約した場合、元の支援機関が手数料を請求できる条項です。いずれも支援機関の側が投じた労力を回収するための仕組みであり、条項の存在自体が否定されているわけではありません。ガイドラインが求めているのは適正化です。専任条項では、期間が不当に長期にならないこと、依頼者が他の支援機関等に意見を求めることを不当に妨げないことが論点になります。テール条項では、期間の長さと、対象となる譲り受け側の範囲をどこまで限定するかが論点です。具体的な期間や範囲の考え方は、中小M&Aガイドライン第3版の原文で確認してください。試験対策としては、「条項があるかないか」ではなく「その条項が依頼者の選択肢を不当に狭めていないか」という視点で事例を読む訓練が必要です。

行動指針⑤不適切な譲り受け側の排除——知ったときに何をするか

不適切な譲り受け側への対応は、優先的に出題する項目としても挙がっている論点です。中小M&Aでは、譲り受け側が譲渡側の資産を毀損する、従業員の雇用を守らない、譲渡対価を支払わないといった事態が現実に問題になってきました。支援者に求められるのは、譲り受け側の情報を確認すること、そして懸念が生じた場合に依頼者へ伝えることです。ここで判定の分かれ目になるのは、確認して終わりにしていないか、という点です。調査の結果として不利益な事実を把握しながら、成約や手続の進行を優先して依頼者に説明しないという行為は、この科目で最も重く扱われる類型に属します。試験の事例では、支援者が懸念情報を認識している状態からの選択が問われます。適切とされるのは、確認結果を依頼者に報告し、最終契約締結前に、契約後やクロージング後にトラブルとなり得るリスクを説明するという対応です。

行動指針⑥反社会的勢力との関係遮断——公表サンプルの禁忌肢はここ

反社会的勢力との関係遮断は、公表されたサンプル問題で禁忌肢の例が示された領域です。示された禁忌肢は、譲り受け側の社長と反社会的組織との交友関係を確認していながら、成約や手続の進行を優先するために譲渡側の社長には説明せずに取引を進める、という選択でした。この肢が禁忌とされる理由は、単に規範に反しているからではありません。依頼者が判断を誤る決定的な情報を、支援者が自分の利益のために遮断しているからです。この構造は、⑤の不適切な譲り受け側の排除、②の情報管理と地続きです。学習上の要点は、反社会的勢力の定義を覚えることではなく、「疑いを認識した時点で、支援者は何をしなければならないか」を即答できる状態にすることです。認識したら依頼者に伝える。これが例外なく適用される規範として置かれています。

実務の慣行と規範文言がずれるとき、問われるのは規範文言

この科目で最も危険なのは、実務の感覚で解くことです。M&A支援の現場には、規範文言より緩い慣行が残っている領域があります。専任条項やテール条項の設定、当事者への説明の範囲とタイミング、他の支援機関への意見聴取の扱いなどは、その代表です。試験で判定の基準になるのは、現場でどう扱われているかではなく、中小M&Aガイドライン第3版に何と書かれているかです。この点は、実務経験の長い受験者ほど不利に働く可能性があります。経験に基づく「これで問題になったことはない」という判断が、そのまま誤答につながるからです。もう1つ注意すべきは、規範の一部だけを正しく書き、条件や範囲を微妙に改変した肢です。文言の大半が正しいため、規範を要約でしか理解していないと選んでしまいます。原文を読む必要があるのは、この型の肢を外すためです。

科目別最低基準50%と禁忌肢——この科目だけ関門が二重にある

倫理・行動規範には、他の3科目にない構造があります。科目別合格最低基準50%程度(現状案)に加えて、禁忌肢という別軸の関門が重なっているためです。15問前後という設問数で8問前後が50%の水準ですが、この科目でその水準を目標に置くのは適していません。第1に、出題割合25%は総得点への寄与が大きく、ここを50%台で通すと総得点70〜80%程度(現状案)に届きにくくなります。第2に、そもそも禁忌肢は正答率とは別の判定軸であり、「7問間違えても大丈夫」という発想が禁忌肢の回避と両立しません。この科目に必要なのは得点計算ではなく、規範の網羅です。ガイドライン第3版に置かれた「してはならない」を、抜けなく認識している状態を目指してください。合格基準の3層構造は当サイトの合格基準の記事で扱っています。

学習の手順——「してはならない」を抜き出し、理由まで言えるようにする

順序は4段階です。第1に、中小M&Aガイドライン第3版の支援機関向けの部分から、「〜しなければならない」「〜してはならない」という文末の記述をすべて抜き出し、一覧にします。要約サイトではなく原文から抜き出すのは、条件や範囲を改変した誤答肢を外すためです。第2に、抜き出した各項目について「なぜ禁止されるのか」「誰の、どの利益を守るための規範か」を1行で書き添えます。理由まで書けていれば、一覧にない初見の事例にも対応できます。第3に、公表されている小項目の11ブロックに、抜き出した規範を割り当てます。どのブロックにも規範が入っていれば、網羅の抜けを確認できます。第4に、事例型の演習で、選ばなかった肢についても「なぜ不適切か」を言語化します。禁忌肢の回避は、正しい肢を選ぶ訓練ではなく、危険な肢を認識する訓練で身につきます。

倫理は常識で解けますか?

常識ではなく規範文言で判定されます。特に専任条項・テール条項・直接交渉の制限は、条項の存在自体ではなく期間や範囲の適正さが論点になるため、中小M&Aガイドライン第3版の原文を読んでいないと判断できません。実務の慣行と規範がずれる領域では、規範のほうが基準になります。

禁忌肢を1つ選ぶと不合格になりますか?

公表されている想定は、複数の設問に禁忌肢を配置し、一定数を選んだ場合に不合格とする設計です。設問数と閾値は2026年8月31日時点で公表されていません。1つで即不合格かどうかは確定していないため、確定情報は試験案内の公表を待つ必要があります。

倫理・行動規範は何問出ますか?

科目別の設問数は公表されていません。分かっているのは出題割合が25%(現状案)であることと、設問数が60問程度(現状案)であることです。この2つから算出すると15問前後になります。

ガイドラインは第3版だけ読めばよいですか?

出題の母体として示されているのは中小M&Aガイドライン第3版です。第3版は2024年8月30日に中小企業庁が公表しました。旧版との差分を追う必要はなく、最新版の原文を読むことが優先されます。

M&A支援機関登録制度と倫理科目はどう関係しますか?

登録制度は、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言した支援機関を登録・公表する仕組みで、倫理・行動規範の出題範囲にも支援機関向けの基本姿勢という小項目が置かれています。登録FA・仲介業者は3,399件(法人2,606件・個人793件、令和8年3月9日時点)です。