この記事の目次(10項目)
  1. 法務は60問中およそ何問に相当するのか——最小科目ほど1問が重い
  2. 出題範囲の小項目は、法令別ではなく「契約の時系列」で並んでいる
  3. 会社法:株式譲渡の承認手続と、事業譲渡の株主総会決議
  4. 民法:契約の基礎——秘密保持契約から最終契約までの拘束力
  5. 労働法:労働契約承継法と、事業譲渡における個別の同意
  6. 弁護士法:独占業務の境界——優先出題に挙がる理由
  7. 最終契約の表明保証・補償・解除・前提条件——法務とM&A実務の横断領域
  8. この科目で失点する構造は、暗記でも計算でもなく「要件へのあてはめ」
  9. 科目別最低基準50%——分母が小さい科目の落とし穴
  10. 学習の手順——スキーム別の手続表と、境界事例の反復

法務は60問中およそ何問に相当するのか——最小科目ほど1問が重い

法務の出題割合は17〜18%(現状案)で、4科目のうち最も小さい科目です。試験形式の現状案が設問60問程度であることから算出すると、10〜11問前後に相当します。これは公表されている割合と設問数の想定を掛け合わせた当サイトの算出値で、科目別の設問数そのものは公表されていません。科目別合格最低基準は50%程度(現状案)ですから、必要な正答は5〜6問前後です。ここに、最小科目であることの逆説があります。10問しかない科目では、1問の取りこぼしが正答率を約10ポイント動かします。M&A実務なら21〜24問前後あるため1問の重みは4〜5ポイントですが、法務では同じ1問が2倍以上重く効きます。出題割合が小さいことは「捨ててよい」を意味せず、むしろ数問のブレで科目別基準を割りやすい科目だ、というのが正しい読み方です。

出題範囲の小項目は、法令別ではなく「契約の時系列」で並んでいる

法務の出題範囲として公表されている小項目は、法務基礎(関連法令の基本)、秘密保持契約、アドバイザリー(仲介・FA)契約、意向表明/基本合意、最終契約、クロージング、リスク/係争です。会社法・民法・労働法という法令の目次ではなく、案件で交わされる契約の時系列で並んでいる点が、この科目の性格を表しています。つまり問われるのは体系的な法律知識ではなく、「この段階でこの書面を交わすとき、法的にどうなるか」です。関連法令の基本という括りの中に会社法・民法・労働法・弁護士法が入り、それらは各契約段階の判断材料として登場します。学習を法令別に組み立てると、この並びと噛み合いません。契約の時系列を縦軸に置き、各段階で登場する法令を横に貼っていく組み立て方のほうが、出題範囲の構造に合っています。

会社法:株式譲渡の承認手続と、事業譲渡の株主総会決議

会社法で押さえるのは、スキームごとに必要な手続と決議要件です。中小企業の株式の多くは譲渡制限株式であり、その譲渡には会社の承認が必要です。承認機関は原則として株主総会(取締役会設置会社では取締役会)で、定款で別の定めを置くこともでき、承認がないまま譲渡しても会社に対抗できません。事業譲渡は、事業の全部または重要な一部を譲渡する場合に株主総会の特別決議が必要となり、反対株主には株式買取請求権が生じます。会社分割では債権者保護手続が問題になります。ここで問われ方の特徴を1つ挙げると、条文番号ではなく「誰の承認・決議が必要か」「その手続を欠くとどうなるか」が中心になるということです。試験対策としては、株式譲渡・事業譲渡・会社分割の3つを縦に並べ、必要な機関決定、必要な同意、必要な通知・公告を横に並べた一覧を自分で作れる状態を目標にしてください。

民法:契約の基礎——秘密保持契約から最終契約までの拘束力

民法は、契約がいつ成立し、どこまで当事者を縛るのかという基礎が対象です。M&Aの工程では、秘密保持契約、アドバイザリー(仲介・FA)契約、意向表明、基本合意、最終契約と複数の書面が順に交わされますが、法的拘束力の強さは一様ではありません。意向表明は原則として拘束力を持たない前提で扱われ、基本合意は独占交渉権や秘密保持といった一部の条項にのみ拘束力を持たせる設計が一般的です。この「同じ書面の中に、拘束力のある条項とない条項が混在する」という構造を理解していないと、基本合意を最終契約と同じ確定事項として扱う誤答肢を選びます。アドバイザリー契約側では、免責条項があっても支援者が当然に負うべき情報提供の義務が直ちに消えるわけではない、という点が論点になります。契約書に書いてあるかどうかだけで結論を出す発想が、この科目では最も危険です。

労働法:労働契約承継法と、事業譲渡における個別の同意

労働法で中心になるのは、スキームによって労働契約の承継のされ方が違うという点です。会社分割では、労働契約承継法により、承継される事業に主として従事する労働者の労働契約は分割契約の定めに応じて承継され、会社には労働者への事前の通知、労働者との協議、一定の場合の異議申出の機会の付与が求められます。手続を踏まずに進めた場合の効果が論点になります。これに対し事業譲渡では、労働契約は当然には移らず、労働者ごとの個別の同意が必要です。株式譲渡では会社そのものは変わらないため、労働契約はそのまま存続します。3つのスキームで結論が3通りに分かれるため、設問化しやすい領域です。従業員の処遇はM&A実務科目でも扱われますが、法務側で問われるのは手続の要否と、欠いた場合の法的な帰結です。

弁護士法:独占業務の境界——優先出題に挙がる理由

弁護士法は、法務科目の中で優先的に出題する項目として挙がっています。公表されたサンプル問題の型の1つも独占業務の境界判定でした。趣旨は明快で、この試験が認定しようとしているのは「自分で扱ってよい範囲と、専門家につなぐべき範囲を線引きできる支援者」だからです。境界を理解するうえで重要なのは、士業ごとに要件が違うという点です。弁護士法が禁じる非弁行為は、報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を業として扱うことを要件としています。一方、税理士業務は有償・無償を問わず税理士以外が行えない扱いになっており、商標の登録出願手続は弁理士の業務です。したがって「無償だから大丈夫」という一律の判断は成り立ちません。支援者ができるのは、当事者間の意思を正確に伝え、書面をやり取りする過程を整えることであり、権利義務に争いのある事項について一方の代理人として交渉することではありません。

最終契約の表明保証・補償・解除・前提条件——法務とM&A実務の横断領域

最終契約は、法務とM&A実務の双方の出題範囲に置かれた横断領域です。押さえる条項は4つ。表明保証は、当事者が一定の事実を真実であると相手方に表明し保証する条項で、違反があったときに補償の引き金になります。補償は、違反によって生じた損害を金銭で手当てする条項で、請求できる期間と上限額が設定されるのが通例です。解除は、どの時点まで、どの事由で契約を解いてよいかを定めます。クロージング前提条件は、この条件が満たされなければ実行しないという条件で、条件を放棄して実行した場合にその事項に関する責任が残るかどうかが論点です。ここで受験者が誤りやすいのは、解除と補償を排他的に捉えることです。契約の設計によっては、解除がされてもすでに生じた違反に対する補償請求は残ります。この横断性を踏まえると、法務の実質的な学習効果は出題割合17〜18%という数字より大きくなります。

この科目で失点する構造は、暗記でも計算でもなく「要件へのあてはめ」

法務の失点は、条文を覚えていないことでは起きません。起きるのは、事例の事実を要件にあてはめる段階です。典型は3つあります。第1は、スキームの取り違えです。事業譲渡の話に会社分割の手続を持ち込む、株式譲渡なのに従業員の個別同意を求める、といった誤りは、手続を暗記していても事例の読み違えで発生します。第2は、書面の名前で拘束力を判断してしまうことです。基本合意という名称からは拘束力の有無は決まらず、条項ごとに判断されます。第3は、独占業務の境界を有償・無償の一点で判断することです。財務・税務の失点が数値と符号で起きるのに対し、法務は「事実をどの要件に載せるか」で起きます。したがって対策も、用語集の反復ではなく、事例を読んで要件を選ぶ演習でなければ効果が出ません。

科目別最低基準50%——分母が小さい科目の落とし穴

科目別合格最低基準50%程度(現状案)に対し、法務は10〜11問中5〜6問前後が該当します。最も小さい科目でありながら、この科目が科目別基準の分かれ目になりやすい構造上の理由が2つあります。第1に、母数が小さいため、たまたま苦手な論点が2〜3問続いた時点で50%を割る計算になること。第2に、法務は実務家が「専門家に任せる領域」として日常的に切り離している範囲であり、経験年数が長くても知識が積み上がりにくいことです。一方で、範囲は4科目で最も狭く、押さえるべき論点も会社法の手続・契約の拘束力・労働契約の承継・独占業務の境界に絞られます。学習時間あたりの得点の伸びは大きい科目です。合格基準の3層構造そのものは、当サイトの合格基準の記事で扱っています。

学習の手順——スキーム別の手続表と、境界事例の反復

順序は4段階です。第1に、株式譲渡・事業譲渡・会社分割の3スキームについて、必要な機関決定、必要な同意、労働契約の扱い、許認可の扱いを1枚の表に落とします。この表が埋まれば会社法と労働法の大半は形になります。第2に、秘密保持契約から最終契約までの書面を時系列に並べ、それぞれ「どの条項に拘束力があるか」を書き込みます。中小M&Aガイドライン第3版と、そこに付属する契約書のサンプルを原文で確認するのが確実です。第3に、独占業務の境界を、行為の種類ごとに「支援者が自分で扱える/有資格者につなぐ」の2列に仕分けます。ここは有償・無償の別ではなく、士業ごとの要件で仕分けてください。第4に、最終契約の4条項を、M&A実務科目の学習と同時に扱います。横断領域を2科目分としてまとめて処理することが、この科目で時間を作る唯一の方法です。

条文番号まで覚える必要はありますか?

条文番号の暗記より、手続の要否と法的な帰結の判断が中心になります。公表されているサンプル問題の型も、条文の知識を直接問う形ではなく、事例の状況から適否を判断させる形です。番号は根拠を確認するための手がかりとして押さえれば足ります。

なぜ弁護士法が優先出題に挙がっているのですか?

支援機関が扱ってよい範囲を越えることを防ぐ趣旨が、この試験の設計に組み込まれているためです。独占業務の境界判定は公表サンプルの出題の型の1つでもあり、専門家に適切につなぐという行動規範とも接続するため、倫理・行動規範科目とも重なります。

法務は出題割合が小さいので後回しにしてよいですか?

後回しにしにくい科目です。科目別合格最低基準50%程度(現状案)に対し、10〜11問前後という母数の小ささから、1問の取りこぼしが正答率を約10ポイント動かします。範囲は4科目で最も狭いため、早い段階で一度通しておくほうが効率的です。

労働法はどこまで問われますか?

スキームごとの労働契約の扱いの違いが軸です。会社分割では労働契約承継法に基づく通知・協議・異議申出、事業譲渡では労働者ごとの個別の同意、株式譲渡では労働契約がそのまま存続します。この3通りの結論の違いを説明できる状態が目標になります。