この記事の目次(11項目)
- 財務・税務は60問中およそ何問に相当するのか
- 4科目で唯一、公表サンプルに計算問題が現れた科目
- 公表サンプルの計算問題を最後まで解く——フリー・キャッシュ・フローの算定
- 符号を1つ間違えると答えが変わる——誤答肢は計算ミスの形をしている
- バリュエーションの3分類——コスト・マーケット・インカム
- 税務:個人の株式譲渡は申告分離課税、税率20.315%
- 財務DD・税務DDで何を調べるのか
- 出題範囲の小項目——財務と税務は別々に並んでいる
- この科目で失点する構造は3つ——符号・簿価と時価・「節税」型の肢
- 科目別最低基準50%——この科目は「取り切る」科目として扱う
- 学習の手順——公式を覚えるのではなく、同じ型を数値を変えて解く
財務・税務は60問中およそ何問に相当するのか
財務・税務の出題割合は20〜23%(現状案)です。試験形式の現状案が設問60問程度であることから算出すると、12〜14問前後に相当します。これは公表されている出題割合と設問数の想定を掛け合わせた当サイトの算出値であり、科目別の設問数そのものは公表されていません。科目別合格最低基準は50%程度(現状案)なので、この科目で必要な正答は6〜7問前後という計算になります。ここで重要なのは母数の小ささです。12〜14問という規模では、計算問題を2問落とすだけで正答率が15ポイント前後動きます。他の科目なら1問の取りこぼしは埋め合わせが利きますが、この科目では計算の失敗がそのまま科目別基準の可否に直結しやすい構造になっています。
4科目で唯一、公表サンプルに計算問題が現れた科目
財務・税務は、公表されたサンプル問題で計算問題が示された唯一の科目です。公表サンプルは正式4問(4科目各1問・四肢択一)で、その出題の型はスキーム選択の比較判断、計算問題(フリー・キャッシュ・フローの算定)、契約条項の効力判断、独占業務の境界判定の4種類でした(参考として禁忌肢の事例問題も1問)。このうち計算問題が財務・税務にあたります。この事実が学習に与える示唆は明確です。他の3科目は、規範や手続を理解していれば選択肢を絞り込める設計ですが、財務・税務には「解けるか解けないか」がはっきり分かれる問題が含まれます。逆に言えば、この科目は正しい手順を身につければ確実に得点できる部分を持つ唯一の科目でもあります。知識問題の記憶があいまいでも、計算問題は手順が正しければ答えが一意に決まるからです。
公表サンプルの計算問題を最後まで解く——フリー・キャッシュ・フローの算定
公表されたサンプルの計算問題は、次の数値からフリー・キャッシュ・フローを求めるものです。営業利益100百万円、減価償却費10百万円、売上債権の増加額15百万円、棚卸資産の増加額8百万円、仕入債務の減少額2百万円、設備投資額20百万円、実効税率40%。手順は4段階です。第1に、営業利益に税効果を反映します。100百万円×(1−0.4)=60百万円。第2に、現金支出を伴わない費用である減価償却費10百万円を足し戻します。60+10=70百万円。第3に、運転資本の増加分を差し引きます。売上債権の増加15、棚卸資産の増加8、仕入債務の減少2はいずれも運転資本を増やす方向に働くため、合計25百万円を控除します。70−25=45百万円。第4に、設備投資額20百万円を差し引きます。45−20=25百万円。正答は25百万円です。
符号を1つ間違えると答えが変わる——誤答肢は計算ミスの形をしている
この設問の誤答肢は29百万円、65百万円、75百万円でした。ここが計算問題の怖さです。仕入債務の「減少」を運転資本の減少と取り違えて2百万円を加算すると、70−21−20=29百万円になります。税効果を反映し忘れて営業利益100百万円のまま計算すると、100+10−25−20=65百万円になります。いずれも誤答肢としてそのまま並んでいる値です。つまり、途中で1か所だけ符号や工程を間違えても、計算結果は「選択肢の中にある値」になり、間違えたことに気づけません。他の科目なら、明らかに不自然な肢は消去法で外せますが、計算問題では消去法が働かない設問が作れます。財務・税務の対策で最優先すべきは公式を覚えることではなく、売上債権・棚卸資産・仕入債務それぞれの増減が運転資本にどちら向きに効くかを、迷わず言えるようにしておくことです。
バリュエーションの3分類——コスト・マーケット・インカム
バリュエーションのアプローチは3つに分類されます。コストアプローチは純資産を基礎に価値を求める考え方(簿価純資産法・時価純資産法など)、マーケットアプローチは類似する上場会社や取引事例と比較する考え方(類似会社比較法など)、インカムアプローチは将来生み出すキャッシュフローや利益を現在価値に割り引く考え方(DCF法など)です。中小M&Aの実務では時価純資産法を中心とする方法が多く用いられます。事業計画の精度や比較可能な類似会社の確保が難しい一方、資産・負債を時価に置き直す作業は中小企業でも実施しやすいためです。試験対策として押さえるべきは、各手法の計算式より先に「どの前提が使えるときにどのアプローチが選べるか」という対応関係です。そして、算定結果は交渉の出発点であって決定価格ではなく、支援者が特定の算定額を保証するような説明をしてはならないという位置づけは、M&A実務科目・倫理科目とも共通する論点です。
税務:個人の株式譲渡は申告分離課税、税率20.315%
個人が株式を譲渡して譲渡益を得た場合、課税は申告分離課税となり、税率は20.315%です。内訳は所得税15.315%(復興特別所得税を含む)と住民税5%です。この数値は、譲渡側オーナーの手取りを左右する最も基本的な前提であり、株式譲渡と事業譲渡の比較でも起点になります。株式譲渡では株主である個人に譲渡所得課税が生じ、事業譲渡では譲渡の対価を受け取るのが会社であるため法人税等の課税を経由します。つまり「誰に課税されるのか」がスキームによって変わり、その差が譲渡側の手取りに反映されます。役員退職金は、退職金として支給できる範囲で税負担が異なる扱いとなるため、譲渡対価との組み合わせが論点になります。税率や制度は法改正で変わり得るため、本記事の数値は2026年8月31日時点のものとして扱い、受験時点の制度を必ず確認してください。
財務DD・税務DDで何を調べるのか
出題範囲の小項目として公表されているのは「財務DD」「税務DD」という項目名までで、個別の調査項目の一覧が公表されているわけではありません。そのうえで、学習の整理として一般に確認される事項を挙げると、財務DDでは、簿価を時価に置き直した実態純資産、一時的要因を除いた正常収益力、運転資本の水準、簿外債務や偶発債務の有無、資金繰りの実態などが対象になります。税務DDでは、過去の申告内容の適正性、未納や追徴のリスク、繰越欠損金の状況、消費税・源泉徴収の処理、関係会社との取引が対象になります。この科目でDDが問われるとき、支援者に求められるのは自ら調査結果を判断することではなく、必要な調査の範囲を依頼者と確認し、専門家につなぎ、発見された事項を正確に伝えることです。簿価上は債務超過に見えても時価では資産超過になる場合がある、という簿価と時価の区別は、DDと時価純資産法の両方にまたがる基本論点です。
出題範囲の小項目——財務と税務は別々に並んでいる
公表されている小項目は、財務と税務で別立てになっています。財務は、財務基礎、スキームの初期的な検討(財務上の留意事項)、バリュエーション、財務DD、最終契約。税務は、税務基礎、スキームの初期的な検討(税務上の留意事項)、税務DD、最終契約です。同じ工程名が財務側と税務側の両方に置かれている点が特徴で、たとえばスキーム検討は「財務上どう見えるか」と「税務上どう課税されるか」を別々に問える構造になっています。財務基礎は簿記と財務3表(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書)の関係が土台です。最終契約が財務・税務の小項目にも入っているのは、譲渡対価の調整(クロージング時点の純資産や運転資本に応じた価格調整)や、補償の税務上の取扱いといった論点が、契約条項と数値の両方にまたがるためです。
この科目で失点する構造は3つ——符号・簿価と時価・「節税」型の肢
財務・税務の失点は3つの型に集約されます。第1は計算の符号です。運転資本の各項目の増減がキャッシュフローにどちら向きに効くかを取り違えると、前述のとおり誤答肢の値にぴたりと着地します。第2は簿価と時価の混同です。時価純資産法は資産・負債を時価に置き直したうえで純資産を求める方法なので、簿価上は債務超過でも時価では資産超過となる場合があり、その逆もあります。簿価の数値をそのまま結論に使う肢は誤りとして作りやすい部分です。第3は「節税になる」という方向の誤答肢です。スキームや役員退職金の設計は、税負担だけでなく、誰に課税されるか、他の条件とどう連動するかで結論が変わります。税負担が軽いという一点だけを根拠に最適と結論づける肢は、事例型の設問で典型的な誤りとして置かれます。M&A実務や法務の失点が順序や要件のあてはめで起きるのに対し、この科目の失点は数値と方向の取り違えで起きる、という違いを意識してください。
科目別最低基準50%——この科目は「取り切る」科目として扱う
科目別合格最低基準50%程度(現状案)に対し、財務・税務は12〜14問中6〜7問前後が該当します。ただしこの科目については、50%を目標に置く扱いは適していません。理由は、計算問題が答えの一意に決まる問題であり、手順を固めれば安定して取れる領域だからです。総得点70〜80%程度(現状案)を狙ううえで、努力と得点の相関が最も素直なのがこの科目です。逆に、簿記や財務の素養がない受験者にとっては、この科目が科目別基準を割る最有力候補になります。財務3表の関係が説明できない状態であれば、バリュエーションもDDも土台のないまま暗記することになり、事例型の設問で崩れます。自分がどちらの側にいるかを最初に切り分けることが、この科目の学習配分を決める分岐点です。判断は、公表サンプルと同じ型の計算問題を1問、時間を計って解いてみれば足ります。
学習の手順——公式を覚えるのではなく、同じ型を数値を変えて解く
順序は5段階です。第1に、財務3表の関係を確認します。損益計算書の利益がどう貸借対照表に積み上がり、そこから現金の増減がどう導かれるかを、言葉で説明できる状態にします。第2に、公表サンプルと同じフリー・キャッシュ・フローの型を、数値を変えて繰り返し解きます。同じ問題を5回ではなく、同じ型の別数値を5回です。第3に、運転資本の3項目(売上債権・棚卸資産・仕入債務)の増減がキャッシュフローにどちら向きに効くかを、符号だけを取り出して暗唱できるようにします。第4に、バリュエーションの3分類を、手法名ではなく「どの前提が使えるとき選べるか」で整理します。第5に、課税関係を「誰が・何に対して・どの税率で」の3列の表にまとめます。株式譲渡と事業譲渡、個人と法人、譲渡対価と役員退職金の組み合わせで表が埋まれば、この科目の税務は形になります。
簿記の資格がないと不利ですか?
資格そのものは要件ではありませんが、財務3表の関係を理解していることが前提になります。損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書のつながりが説明できる程度の土台があれば、計算問題は手順の反復で安定します。土台がない状態でバリュエーションから入ると、事例型の設問で崩れやすくなります。
計算問題は何問出ますか?
出題数の内訳は2026年8月31日時点で公表されていません。分かっているのは、財務・税務の出題割合が20〜23%(現状案)であること、公表サンプル4問のうち計算問題が財務・税務から1問示されたことです。設問60問程度という現状案から算出すると科目全体で12〜14問前後で、その中に計算・事例・知識が混在する想定になります。
電卓は使えますか?
2026年8月31日時点で公表されていません。CBT方式が想定されていますが、電卓の可否や画面内電卓の提供有無は試験案内で確定します。当サイトは公表され次第、試験形式の記事を更新します。
税率が改正されたら記事は更新されますか?
更新します。本記事の税率は2026年8月31日時点の内容で、記事には最終確認日を明示しています。税制は改正され得るため、受験時点の制度を一次資料で確認してください。
財務・税務と M&A実務でバリュエーションが重複しています。どちらで勉強しますか?
算定は財務・税務、位置づけと伝え方はM&A実務、と分けて学習するのが効率的です。バリュエーションは両科目の出題範囲に置かれているため、1つの論点で2科目に対応できます。限られた学習時間では、こうした重複領域から着手する価値があります。