税理士・公認会計士と中小M&A資格|既習の財務・税務は出題20〜23%
中小M&A資格試験(仮称)で税理士・公認会計士の既習領域と直接重なるのは財務・税務で、出題割合は20〜23%(現状案)です。残る77〜80%は、M&A実務35〜40%、倫理・行動規範25%、法務17〜18%が占めます。さらに合格基準の現状案には科目別の最低基準50%程度が含まれるため、財務・税務で上積みしても他科目の不足を埋める形の合格は成立しません。税理士・公認会計士にとっての論点は「得意科目があるかどうか」ではなく、専門外が多数派になる配分のなかで、どの科目を50%の上に乗せるかにあります。
税理士・公認会計士の既習領域は、出題の何%か
税理士・公認会計士の既習領域と正面から重なるのは財務・税務で、その出題割合は20〜23%(現状案)です。中小企業庁の検討会資料が示す4科目の配分は、M&A実務35〜40%、倫理・行動規範25%、財務・税務20〜23%、法務17〜18%です。財務・税務の中身は簿記と財務3表、バリュエーション、財務デューデリジェンスと税務デューデリジェンス、各種税金、役員退職金、株式譲渡スキームの税務であり、日常業務で扱う領域と語彙が重なります。しかし配分の上では、この重なりは全体の5分の1程度にとどまります。残る77〜80%は、決算・申告・税務相談の延長線上にはない領域です。
この比率を設問数の感覚に置き換えると、負担の位置がつかみやすくなります。試験形式の現状案は設問60問程度・試験時間120分・CBT方式です。出題割合をそのまま設問数に当てはめた概算では、M&A実務が21〜24問、倫理・行動規範が15問、財務・税務が12〜14問、法務が10〜11問という並びになります。設問数の内訳そのものは2026年8月31日時点で公表されていないため、これはあくまで公表された割合からの概算です。それでも、既習領域で取り切れるのが12〜14問前後で、40問以上が別の科目から出るという構図は変わりません。
財務・税務20〜23%——既習だが「そのまま同じ」ではない部分
財務・税務は既習領域ですが、試験が扱う切り口は税務実務とすべて同じではありません。検討会資料の出題範囲では、バリュエーションはコスト・マーケット・インカムの3分類で整理され、中小企業では時価純資産法が用いられることが多いとされています。税理士・公認会計士が日常的に触れる株価算定は、税務上の評価という目的のもとで手続が定められた世界です。一方でM&Aのバリュエーションは、当事者間の価格交渉の材料をどう作るかという文脈に置かれます。用語も計算の道具も近い一方で、何のために数字を出すのかという前提が違うため、既習であることが必ずしもそのまま得点に変換されるとは限りません。
税務の側では、株式譲渡スキームの税務が出題範囲に含まれます。個人の株式譲渡は申告分離課税で、税率は20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。役員退職金や各種税金も範囲に入っており、この部分は税理士・公認会計士にとって説明の順序を確認する作業に近くなります。また財務・税務は、4科目のなかで計算問題が出る唯一の科目です。公表されたサンプル問題4問のうち1問はFCF(フリー・キャッシュ・フロー)算定の計算問題でした。計算が出る科目が自分の専門領域に重なっていることは、この配分のなかでは数少ない構造上の利点です。
税理士と公認会計士で、重なり方は同じではない
同じ財務・税務20〜23%でも、税理士と公認会計士では既習として持ち込める部分の位置が違います。財務・税務の出題範囲には、簿記と財務3表、バリュエーション、財務デューデリジェンスと税務デューデリジェンス、各種税金、役員退職金、株式譲渡スキームの税務が並びます。このうち簿記・財務3表と財務デューデリジェンスは財務諸表を読み解く仕事に近く、税務デューデリジェンス・各種税金・役員退職金・株式譲渡スキームの税務は税務申告と税務相談の仕事に近い並びです。どちらの職種も、この科目のなかで既習の部分と読み直しが要る部分の両方を持つことになります。
ただし、その違いが合格までの距離を変えるわけではありません。差が出るのは財務・税務20〜23%という1科目の内側での学習時間の配分であって、残る77〜80%が専門外になるという構造は両職種に共通するからです。バリュエーションについても、コスト・マーケット・インカムの3分類という枠組みで整理され、中小企業では時価純資産法が用いられることが多いとされる一方、公表サンプル問題の計算問題はFCF算定でした。評価の枠組み全体を押さえる必要があるという点でも、既習の有無で対策の骨格が変わる余地は大きくありません。
残り77〜80%はどう分かれているか
専門外になりやすい77〜80%の内訳は、M&A実務35〜40%、倫理・行動規範25%、法務17〜18%です。M&A実務は事前相談、仲介契約とFA契約、重要事項説明、スキーム、バリュエーション、マッチング、デューデリジェンス、最終契約、クロージング、PMI、そして市場動向と中小企業政策までを含みます。倫理・行動規範は中小M&Aガイドライン第3版(2024年8月30日公表)の行動指針が母体です。法務は会社法、民法、労働法、弁護士法です。3科目はいずれも、財務・税務の知識を足がかりにして短時間で解けるようになる性質のものではありません。学習計画上は、この3科目にかける時間をどう確保するかが先に決まる問題になります。
科目別最低基準50%が「得意科目の貯金」を無効にする
合格基準の現状案は3層構造で、総得点70〜80%程度、科目別の最低基準50%程度、そして倫理・行動規範の禁忌肢です。ここで効いてくるのが第2層です。財務・税務でどれだけ正答を積み上げても、他の科目が50%を下回れば、その不足は総得点では埋め合わせられません。得意科目の貯金で不得意科目を支えるという受験戦略が、設計上あらかじめ封じられている形です。税理士・公認会計士の場合、貯金を作れる科目が出題の2割程度に限られるため、この制約は他の属性より強く働きます。
先ほどの概算に戻すと、意味がはっきりします。60問程度のうち総得点70〜80%は42〜48問前後にあたり、財務・税務で満点を取っても12〜14問です。残りの28〜36問前後を、M&A実務・倫理・行動規範・法務から取る必要があります。しかも法務が10〜11問前後の科目だとすれば、そのうち5〜6問前後が50%の目安になり、1問の重みが相対的に大きい科目になります。設問数が少ない科目ほど、取りこぼしが科目別基準に直結しやすいという性質があります。なお設問数の内訳・配点の詳細・科目別基準の正確な数値は、いずれも2026年8月31日時点で公表されていません。
M&A実務35〜40%——決算・申告で見る企業と、工程で見る企業
M&A実務は最大の配点を持つ科目で、税理士・公認会計士にとっては最も距離のある領域になりやすい部分です。顧問業務では、企業を決算書と申告書、そして年次の経営状況として見ます。一方でM&A実務が問うのは、事前相談から成約後のPMIまでの工程で当事者と支援者が何をするかという手順の知識です。検討会資料では、特に重要度が高く優先的に出題する項目として58項目が示され、その重心は重要事項説明、最終契約ブロック、仲介とFAの違い、不適切な譲り受け側、PMIにあります。仲介とFAの違いのように、どちらの立場で誰の利益のために動くのかを整理する論点は、顧問という単一の立場からは見えにくい部分です。
倫理・行動規範25%——顧問の立場と、支援機関の立場は同じではない
倫理・行動規範は25%を占め、中小M&Aガイドライン第3版の行動指針が出題の母体です。扱う論点は、利益相反の管理、秘密保持、直接交渉の制限、専任条項とテール条項の適正化、不適切な譲り受け側の排除、反社会的勢力との関係遮断です。顧問税理士・顧問会計士は、依頼者である顧問先の側に立って助言する立場です。これに対しM&Aの支援では、仲介であれば譲渡側と譲受側の間に立ち、FAであれば一方の側に立つという、立場の設計そのものが論点になります。顧問先の譲渡を支援しながら譲受側とも接点を持つような場面で、どう振る舞うかを規範として判断できるかが問われます。
この科目には禁忌肢が設定される方針です。複数の設問に配置し、一定数を選ぶと不合格とする設計が想定されており、設問数と閾値は公表されていません。公表サンプル問題で示された例は、反社会的勢力との関係が疑われる情報を依頼者に伝えずに進める行為でした。禁忌肢は、他の科目の正答数で相殺できない層として置かれているため、財務・税務の強さでは対処できません。対策としては、ガイドライン第3版の該当箇所を要約ではなく原文で読み、どの行為が明確に否定されているかを、判断ではなく規範として押さえる進め方が実際的です。
法務17〜18%——弁護士法の独占業務の境界が優先出題される意味
法務は17〜18%と最も配分が小さい科目ですが、士業にとっては見過ごせない論点を含みます。出題範囲は会社法(株式譲渡の承認手続、事業譲渡の株主総会決議など)、民法(契約の基礎)、労働法(労働契約承継法)、そして弁護士法です。このうち弁護士法については、独占業務の境界が優先的に出題する項目として位置づけられています。公表されたサンプル問題4問のうち1問は、この独占業務の境界判定の型でした。試験全体で最も配分の小さい科目に、優先出題の指定が置かれている点が、この論点の位置づけを示しています。
境界の判定が実務上どう効くかは、士業が顧問先の案件に関わる場面を考えると具体的になります。M&Aの過程には、資料の分析や税務の検討のように自分の資格の業務範囲で行える作業と、法律事務にあたる可能性のある行為が混在します。どの行為がどちら側かは個別の事案ごとの判断であり、この記事や試験対策で線を引き切れる性質のものではありません。試験が問うのは、その境界を意識できているかという知識の水準です。境界を意識できていれば、案件のどの段階で弁護士等の関与を求めるかという判断につながります。また最終契約の表明保証・補償・解除・クロージング前提条件は、法務とM&A実務にまたがる横断領域として位置づけられており、科目をまたいで問われ得る部分です。
顧問先の事業承継・M&A支援と、この資格の接続点
制度の設計上、この資格は合格して終わるものではありません。検討会資料では、合格のあとに登録講習、氏名データベースの公表、定期講習と続く流れが示され、運用開始は令和10年度以降が想定されています。合格や登録が支援業務の要件になるかどうかは、2026年8月31日時点で公表されていません。したがって「取得すれば顧問先支援ができるようになる」といった説明には現時点で裏づけがありません。言えるのは、中小M&Aガイドライン第3版の規範と、支援の工程知識を共通の水準で確認する仕組みが作られようとしている、という制度の方向だけです。試験の実施は民間団体への毎期公募で委託される設計で、初回の委託先には株式会社銀行研修社が採択されています(2026年5月1日公表)。
学習の入口をどこに置くか
学習の入口は、財務・税務ではなく、残る3科目の現在地を測ることに置くのが配分に合っています。財務・税務は既習領域であるぶん、学習の初期に手をつけると進んでいる感覚は得られますが、配分上は20〜23%であり、そこで積み増せる余地は限られます。先に確認すべきは、M&A実務・倫理・行動規範・法務のそれぞれが科目別50%の目安を超えているかどうかです。過去問は存在せず、公表されているサンプル問題は4問のみであるため、材料は限られます。まずは科目別の現在地を測り、50%に届いていない科目から優先出題58項目に沿って範囲を絞る——という順序が、この配分のもとでは無理のない進め方です。
税理士や公認会計士は中小M&A資格試験を免除されますか。
免除の定めは2026年8月31日時点で公表されていません。検討会資料では、立ち上げ期に試験免除は設けない想定が示されています。士業資格の保有による科目免除についても、公表された制度設計のなかに記載はありません。
税理士・公認会計士なら財務・税務だけ対策すれば足りますか。
足りません。財務・税務の出題割合は20〜23%(現状案)にとどまり、合格基準の現状案には科目別の最低基準50%程度が含まれます。財務・税務での上積みは、他科目が50%を下回った場合の不足を埋める働きをしません。
計算問題はどの科目で出ますか。
計算問題が出るのは財務・税務です。中小企業庁が公表したサンプル問題4問のうち1問はFCF算定の計算問題で、他の3問は倫理・行動規範2問と法務1問でした。公表されたサンプル問題はいずれも三肢択一です。
顧問先のM&Aに関わるとき、弁護士法の独占業務はどこまで問題になりますか。
個別の行為ごとの判断であり、一律の線引きは示されていません。試験では弁護士法の独占業務の境界が優先的に出題する項目に位置づけられ、公表サンプル問題にも境界判定の型が含まれています。実務では、法律事務に該当し得る行為について弁護士に確認する前提で進めることになります。
受験料や試験日は決まっていますか。
2026年8月31日時点で公表されていません。受験資格、受験料、申込方法、試験日、合格率のいずれも未公表です。公表されているのは、4科目の構成と出題割合、試験形式、合格基準、出題範囲などの現状案です。
出典(一次資料)
最終確認日: 2026-08-31/発行: グローバルシフト株式会社