この記事の目次(12項目)
  1. 事業会社で中小M&Aに携わる人は、試験にどう位置づけられているか
  2. 位置づけを決めるのは所属先ではなく、担当する業務である
  3. 試験は支援者の立場から出題される——サンプル問題の設定
  4. M&A実務35〜40%——買い手として扱う工程は、範囲の一部にとどまる
  5. 財務・税務20〜23%——投資判断の計算と、支援者が示す算定は目的が違う
  6. 法務17〜18%——自社の契約実務と、支援者が負う説明の範囲
  7. 倫理・行動規範25%——当事者の立場では業務経験が積み上がらない科目
  8. 科目別50%の基準が、経験の偏りをそのまま点に変える
  9. 禁忌肢は、当事者の判断軸と最も食い違う場所にある
  10. 合格後の登録では、所属先名の公表が想定されている
  11. 受験資格・試験日・受験料は2026年9月16日時点で公表されていない
  12. 次の一歩:倫理・行動規範の設問だけを、支援者の席で解いてみる

事業会社で中小M&Aに携わる人は、試験にどう位置づけられているか

中小企業庁の検討会第4回資料2(2026年3月17日)は、中小M&A資格試験の受験対象を2つの文に分けて記載している。1文目は「仲介者・FA等のM&A専門業者又はその他の支援機関(金融機関、士業等専門家、M&Aプラットフォーム等)に所属する仲介・FA業務に関わる者及び今後中小M&Aの仲介・FA業務を行おうとする者を主な受験対象とする」である。2文目は「また、商工団体や事業会社において中小M&Aに携わる者等についても、受験を広く推奨する」である。事業会社という語が現れるのは2文目だけである。

2つの文の違いは、対象の広さではなく記述の性格にある。1文目は試験が誰のために設計されたかを述べ、2文目はその設計の外側にいる人に受験を促している。事業会社の経営企画部門や新規事業部門でM&Aを担当する人は、この2文目に該当する。以上はいずれも2026年3月17日資料に示された現状案であり、受験資格として確定した要件ではない。

位置づけを決めるのは所属先ではなく、担当する業務である

資料2の1文目は、所属先の種類を列挙したうえで「仲介・FA業務に関わる者」と業務で限定している。金融機関に所属していても仲介・FA業務に関わらない人は1文目に入らず、事業会社に所属していても中小M&Aに携わるなら2文目に入る。区分の軸は組織の業種ではなく、担当している業務の中身である。

この構造は、事業会社の担当者が自分の立ち位置を測るときの物差しになる。見るべきは会社の看板ではなく、自分が案件のどの工程に、どちらの立場で関わっているかである。

試験は支援者の立場から出題される——サンプル問題の設定

検討会第4回資料2に参考として示された禁忌肢のサンプル問題は、設問の冒頭を「あなたは中小企業のM&Aを支援する仲介業者である。」と置いている。受験者は仲介業者の席に座り、譲り渡し側の社長に対してどう行動するかを問われる形式である。

事業会社の担当者は、実務では買い手という当事者である。案件で守るのは自社の利益であり、相手方への説明をどこまで尽くすかという設計は仲介者やFAが担っている。試験はその逆の席に受験者を座らせる。この読み替えが、他の受験者層には生じない独自の作業になる。

M&A実務35〜40%——買い手として扱う工程は、範囲の一部にとどまる

出題割合の現状案では、M&A実務が4科目で最も大きく35〜40%程度を占める。事業会社の担当者が日常的に扱うのは、案件情報の検討、意向表明、デューデリジェンスの発注、最終契約、PMIといった買い手側の工程である。

一方で、事前相談、譲り渡し側のニーズの掘り起こし、企業概要書の作成、譲り渡し側の意思決定の支援といった工程は、買い手の席からは見えない。支援者は同じ案件で両側の工程を通しで扱う。実務科目の学習は、自分が関与しない前半工程を埋めるところから始まる。

財務・税務20〜23%——投資判断の計算と、支援者が示す算定は目的が違う

財務・税務の出題割合は20〜23%程度が現状案である。経営企画で投資判断に携わってきた人は、事業計画からキャッシュフローを引き直す作業に慣れている。公表されたサンプル問題でも、財務・税務はフリー・キャッシュ・フローの算定を題材にした計算問題として示されている。

違いは目的の側にある。買い手の計算は、自社が投じてよい上限を決めるために行う。支援者の計算は、依頼者に価格の根拠を説明するために行う。同じ数字を出しても、誰に対して何を負うかが変わる。計算の手順そのものが既習であっても、説明責任を問う形の設問で取りこぼす余地が残る。

法務17〜18%——自社の契約実務と、支援者が負う説明の範囲

法務の出題割合は17〜18%程度が現状案で、4科目のうち最も小さい。事業会社で契約実務に関わってきた経験は、株式譲渡や事業譲渡の条項を読む力として直接効く。

ただし出題は、契約書を読む力だけを問う設計にはなっていない。支援者がどの書面で何を確定させ、どこから先を専門家に引き継ぐかという線引きが対象に含まれる。社内の法務部門に回せば済んでいた判断が、試験では受験者自身の持ち場になる。

倫理・行動規範25%——当事者の立場では業務経験が積み上がらない科目

倫理・行動規範は出題割合25%程度が現状案で、M&A実務に次いで大きい。この科目が扱うのは、支援者が依頼者や相手方に対して負う義務である。利益相反、情報の取扱い、説明の範囲といった論点は、いずれも支援者の立場を前提にしている。

買い手の当事者として何年M&Aに関わっても、この科目の実務経験は積み上がらない。座っている席が違うためである。出題割合25%程度の科目が丸ごと未経験の領域になるという点が、事業会社の担当者と他の受験者層との最大の差である。

科目別50%の基準が、経験の偏りをそのまま点に変える

合格基準の現状案は3層で、総得点70〜80%程度、科目別の合格最低基準50%程度、そして倫理・行動規範に設定される禁忌肢である。科目別の基準があるため、得意な科目の得点で他の科目を補うことはできない。

事業会社の担当者は、財務・税務と法務で既習の強みを持ち、倫理・行動規範で経験が無いという偏りを持ちやすい。この偏りは総得点だけを見ている限り表に出ない。科目別に分けて測って初めて、50%の基準に届いていない科目が見える。

禁忌肢は、当事者の判断軸と最も食い違う場所にある

禁忌肢は倫理・行動規範に設定される現状案で、総得点が基準を満たしていても不合格になり得る仕組みである。公表されたサンプルでは、成約を優先して依頼者への説明を省いた行動が禁忌肢として示されている。

買い手の当事者は、案件を成立させることを目標に置いて動く。その判断軸をそのまま持ち込むと、支援者としては選んではならない肢が自然な選択に見える。事業会社の担当者にとって、ここが最も注意の要る箇所である。

合格後の登録では、所属先名の公表が想定されている

検討会第5回資料2(2026年7月21日)は、登録者を検索できる仕組みの基本情報として、氏名、登録番号、登録年月日、所属先名の4項目を挙げている。資料は所属先名について、個人の特定に有用であることと、所属先ごとの登録者の在籍状況を把握できることを理由として記載している。

同資料は登録要件として、試験合格、誓約書の提出、登録講習の修了、欠格事由に該当しないことの確認を挙げている。資格の有効期限については「期限なし、又は、3~5年などの一定期間を設定」と記載している。事業会社が組織として受験を扱う場合、自社名が登録者検索の側に並ぶことになる。いずれも2026年7月21日資料の現状案であり、確定した制度ではない。

受験資格・試験日・受験料は2026年9月16日時点で公表されていない

中小M&A資格試験の受験資格、試験日、受験申込方法、受験料、試験の正式名称、公式テキストは、2026年9月16日時点でいずれも公表されていない。試験実施事業の委託先として株式会社銀行研修社が採択されたことが2026年5月1日に公表されており、これが実施体制に関する最新の公表事項である。

そのため、費用や日程を前提にした社内の稟議は現時点では組めない。先に決められるのは、誰が受けるかと、その人が今どの科目で50%の基準に届いていないかである。この2つは公表を待たずに確かめられる。

次の一歩:倫理・行動規範の設問だけを、支援者の席で解いてみる

今日できることは1つある。無料の実力診断で倫理・行動規範の設問だけを先に解き、自分が「買い手の担当者として妥当な判断」ではなく「支援者が依頼者に対して負う義務」で答えられているかを確かめることである。判断が買い手側の軸に寄っていれば、その場で分かる。

この科目を最初に測る理由は、出題割合25%程度の現状案でありながら、買い手の当事者としての経験が積み上がらない唯一の領域だからである。無料登録をしておくと診断や模試の結果が保存され、読み替えの練習を重ねたあとに同じ設問での判断がどう変わったかを見比べられる。

事業会社の経営企画でも中小M&A資格試験を受けられますか。

受験資格は2026年9月16日時点で公表されていません。検討会第4回資料2は、事業会社において中小M&Aに携わる者等についても受験を広く推奨すると記載しています(現状案)。

買い手側の実務経験は試験でどのくらい使えますか。

財務・税務(出題割合20〜23%程度)と法務(17〜18%程度)では既習の知識が直接使えます。一方で倫理・行動規範(25%程度)は支援者の立場を前提にした科目のため、買い手としての業務経験は積み上がりません。いずれも現状案の数値です。

社内の複数名で受験することに意味はありますか。

検討会第5回資料2は、登録者検索の基本情報に所属先名を含め、所属先ごとの登録者の在籍状況を把握できることを理由として挙げています(現状案)。組織としての扱いを決める材料はこの記載までで、確定した制度ではありません。

今から何を準備すればいいですか。

4科目のうち倫理・行動規範から測ってください。出題割合25%程度の現状案でありながら、買い手の当事者としての業務経験が最も届かない科目です。無料の実力診断で科目別に分けて解き、科目別50%の基準に届かない科目を特定するところから始められます。