この記事の目次(11項目)
  1. 「主な受験対象」は資格名ではなく、業務で線が引かれている
  2. 「士業等専門家」は支援機関の例示として置かれている
  3. 行政書士・社会保険労務士には、既習で出題割合を稼げる科目がない
  4. 出題割合と科目別50%は、別々の働きをする
  5. 配分の大きい2科目が学習の重心、配分の小さい科目は下限の管理
  6. 倫理・行動規範25%は、士業の職業倫理と同じ形では問われない
  7. 財務・税務と法務は、外部に預けてきたかどうかで負担が変わる
  8. 合格後の登録は、行政書士会・社会保険労務士会の登録とは別の枠組み
  9. 「保有資格」は基本情報ではなく追加情報候補に置かれている
  10. 試験日・受験料・申込方法は2026年9月17日時点で公表されていない
  11. 次の一歩:4科目のうち、50%を割っている科目を1つ特定する

「主な受験対象」は資格名ではなく、業務で線が引かれている

中小企業庁が検討会第4回の資料2で示した受験者像は、資格名ではなく業務で対象を区切っています。資料2は主な受験対象を「仲介者・FA等のM&A専門業者又はその他の支援機関(金融機関、士業等専門家、M&Aプラットフォーム等)に所属する仲介・FA業務に関わる者及び今後中小M&Aの仲介・FA業務を行おうとする者」としています(現状案)。この一文に、行政書士・社会保険労務士という個別の資格名は出てきません。

行政書士・社会保険労務士が自分の位置を確かめる手順は2段です。第1に、所属先が仲介者・FA等のM&A専門業者、またはその他の支援機関に当たるか。第2に、自分の担当業務が仲介・FA業務に関わるか、これから行おうとしているか。資料2はこの2つを満たす者を主な受験対象としています(現状案)。行政書士登録・社会保険労務士登録があること自体は、この判定には使われていません。

「士業等専門家」は支援機関の例示として置かれている

資料2で「士業等専門家」という語が現れるのは、支援機関を例示するかっこ書きの中です(現状案)。金融機関、士業等専門家、M&Aプラットフォーム等という3つの並びの2番目に置かれており、士業の内訳や資格ごとの扱いは書かれていません。税理士・公認会計士・弁護士・司法書士・中小企業診断士・行政書士・社会保険労務士のいずれであっても、資料2の受験対象の記述の上では同じ位置に置かれています。

資料2にはもう1文、「また、商工団体や事業会社において中小M&Aに携わる者等についても、受験を広く推奨する」という記述があります(現状案)。資料2は主な受験対象と推奨対象を2文に書き分けており、士業は後者の推奨対象ではなく、前者の主な受験対象を述べた文の中に、支援機関の例示として入っています。

行政書士・社会保険労務士には、既習で出題割合を稼げる科目がない

試験科目4つのうち、行政書士・社会保険労務士の本来の業務領域を中核に据えた科目はありません。資料2が示す4科目は、M&A実務、財務・税務、法務、倫理・行動規範です(現状案)。税理士・公認会計士であれば財務・税務、弁護士・司法書士であれば法務というように、科目名がそのまま既習領域に重なる士業があるのに対して、行政書士・社会保険労務士には科目名の水準での重なりが生じません。

これは学習の設計の入口が違うということです。既習科目がある受験者は「残りの科目をどう埋めるか」から設計を始められます。行政書士・社会保険労務士は4科目のどれも同じ条件で始まるため、「どこが強いか」ではなく「どこが下限を割っているか」から設計することになります。当サイトの属性別記事のうち、この形になるのは行政書士・社会保険労務士だけです。

出題割合と科目別50%は、別々の働きをする

資料2は科目ごとの出題割合を、M&A実務35〜40%程度、財務・税務20〜23%程度、法務17〜18%程度、倫理・行動規範25%程度としています(現状案)。合格基準は総得点の70〜80%程度の得点率とされ、これに加えて、特定の分野に偏った得点での合格を防ぐ観点から科目別合格最低基準を50%程度に設定するとされています(現状案)。

この2つは別々の働きをします。出題割合は学習時間をどちらへ傾けるかを決め、科目別の下限はどこまで削ってよいかの底を決めます。既習科目がある受験者は得意科目の上振れで総得点を作り、苦手科目は下限の確保だけで済ませる組み立てができます。既習科目がない場合、総得点の70〜80%程度は4科目の底上げでしか作れません。1科目に学習時間を集中させる設計が取りにくい、というのがこの制約の実務的な意味です。

配分の大きい2科目が学習の重心、配分の小さい科目は下限の管理

出題割合の大きい順は、M&A実務35〜40%程度、倫理・行動規範25%程度、財務・税務20〜23%程度、法務17〜18%程度です(現状案)。上位2科目で全体の60〜65%程度を占めます。学習時間をどこから使うかは、この配分がそのまま示しています。

一方で、配分の小さい法務17〜18%程度を後回しにしきることはできません。科目別合格最低基準が50%程度に設定されるため、配分の小さい科目でも半分は確保する必要があります(現状案)。配分の小さい科目は「伸ばす対象」ではなく「割らせない対象」として扱うのが、この試験の形に合った管理の仕方です。

倫理・行動規範25%は、士業の職業倫理と同じ形では問われない

倫理・行動規範は出題割合25%程度で、禁忌肢が設定される科目です(現状案)。資料2は禁忌肢の目的を「倫理・行動規範に著しく反するような支援者を排除する目的で、それを正しいと理解することに大いに問題がある誤答肢について、禁忌肢を設定する」としています(現状案)。行政書士・社会保険労務士は、それぞれの法律に基づく職業倫理を既に持っています。

ただし、この科目が問うのは士業としての受任における倫理ではなく、中小M&Aの支援者が譲り渡し側・譲り受け側に対して負う義務です。中小M&Aガイドラインは、その義務の内容を定めた文書です。倫理・行動規範の対策は、手持ちの職業倫理を持ち込むことではなく、ガイドラインが支援者に求めている行動を読み直すところから始まります。

財務・税務と法務は、外部に預けてきたかどうかで負担が変わる

財務・税務20〜23%程度と法務17〜18%程度を合わせると、出題全体の37〜41%程度です(現状案)。行政書士は許認可や法人関係の書類を、社会保険労務士は労働・社会保険に関する手続を扱います。中小M&Aで問われる財務・税務と法務が、その延長線上にどれだけ乗るかは、これまで関与してきた案件の中身によって人ごとに差が出ます。

ここは一般論では決まりません。同じ行政書士でも、法人の組織再編に関与してきた人と、許認可の新規取得を中心にしてきた人では、法務17〜18%程度の科目に対する現在地が違います。自分がどちらに近いかは、科目ごとに答案を作ってみないと判定できません。

合格後の登録は、行政書士会・社会保険労務士会の登録とは別の枠組み

資格に合格した後の登録は、既存の士業の登録制度とは別に設計されています。検討会第5回の資料2(2026年7月21日)は、登録時の要件を「試験合格」「誓約書の提出」「登録講習の修了」「欠格事由非該当の確認」の4つとしています(現状案)。更新時の要件は「誓約書の提出」と「更新講習の修了」の2つです(現状案)。登録講習・更新講習はM&A実務と倫理・行動規範を内容とし、E-learning形式等での受講が想定されています(現状案)。

資格の有効期限について、同資料は「期限なし、又は、3~5年などの一定期間を設定」と2案を併記しています(現状案)。欠格事由として挙げられているのは、行為能力・破産、刑罰歴・暴力団関係、再登録不可期間に該当する場合の3区分です(現状案)。登録取消要件は、欠格事由に該当したとき、不正な手段で登録を受けたとき、資格者としての信頼を失墜させる不正・著しく不当な行為を行ったとき、の3つです(現状案)。既存の士業資格を持っていることによる免除や読み替えの記載は、同資料にはありません。

「保有資格」は基本情報ではなく追加情報候補に置かれている

登録者を検索できる仕組みの公表項目について、検討会第5回の資料2は基本情報と追加情報候補の2区分を示しています(現状案)。基本情報は氏名、登録番号、登録年月日、所属先名の4項目です(現状案)。追加情報候補は成約実績件数、M&A業務経験年数、保有資格、主要取扱業種の4項目です(現状案)。

行政書士・社会保険労務士にとって確認しておく価値があるのは、「保有資格」が基本情報ではなく追加情報候補の側に置かれている点です。現状案の区分のままであれば、登録者として最初に並ぶのは氏名・登録番号・登録年月日・所属先名で、行政書士・社会保険労務士であることは基本情報としては表示されません。事務所名で認知を築いてきた人にとっては、所属先名が基本情報に入っていることのほうが先に効きます。

試験日・受験料・申込方法は2026年9月17日時点で公表されていない

試験日、受験料、受験申込方法、受験資格は、2026年9月17日時点で公表されていません。試験の実施団体は株式会社銀行研修社で、中小企業庁が2026年5月1日に採択結果を公表しています。採択結果のページに試験日・受験料・受験申込方法の記載はありません。

行政書士・社会保険労務士には、本業の繁忙期が制度の暦で決まっているという事情があります。試験日が本業の山と重なるかどうかは、現時点では判定できません。日程が決まってから学習量を決めるのではなく、いま4科目のどこに穴があるかを先に把握しておくほうが、後から日程に合わせやすくなります。

次の一歩:4科目のうち、50%を割っている科目を1つ特定する

この記事を読んだ行政書士・社会保険労務士が今日できることは1つです。無料の実力診断を、得意科目を探すためではなく、4科目のうちどれが科目別合格最低基準の50%程度を割っているかを見るために使ってください。既習で稼げる科目がない以上、最初に決めるのは「どこから伸ばすか」ではなく「どこが下限を割っているか」です。

今それをやる価値は、この記事で見た2つの基準の働き方の違いにあります。配分の大きいM&A実務から手を付けるのが自然に見えても、法務や財務・税務が下限を割っていれば、総得点を積む前にそちらが効いてきます。無料登録をしておくと、診断や模試の結果が保存され、次に受けたときの点と並べて、どの科目が動いたかを確かめられます。

行政書士・社会保険労務士は中小M&A資格試験の受験対象に含まれますか。

資料2は資格名ではなく業務で受験対象を区切っています。主な受験対象は、仲介者・FA等のM&A専門業者又はその他の支援機関に所属する仲介・FA業務に関わる者と、今後中小M&Aの仲介・FA業務を行おうとする者です(現状案)。士業は支援機関の例示である「士業等専門家」の中に置かれており、行政書士・社会保険労務士という個別の資格名の記載はありません。

行政書士・社労士の業務と重なる試験科目はどれですか。

科目名の水準で重なる科目はありません。試験科目はM&A実務、財務・税務、法務、倫理・行動規範の4つで、行政書士・社会保険労務士の本来の業務領域を中核に据えた科目は立っていません(現状案)。どの科目がどれだけ既習に乗るかは関与してきた案件によって差が出るため、科目ごとに自分の答案で確かめる必要があります。

合格すれば行政書士会・社会保険労務士会の登録とまとめて扱われますか。

別の枠組みです。検討会第5回の資料2は、登録時の要件を試験合格・誓約書の提出・登録講習の修了・欠格事由非該当の確認の4つとし、更新時の要件を誓約書の提出と更新講習の修了の2つとしています(現状案)。既存の士業登録による免除や読み替えの記載は、同資料にはありません。

試験日が公表されていない今、何から準備すればいいですか。

4科目のどれが科目別合格最低基準の50%程度を割っているかを先に特定してください。試験日・受験料・受験申込方法は2026年9月17日時点で公表されていないため、日程から逆算する学習計画は作れません。一方で出題割合と合格基準は資料2に示されているため(現状案)、自分の現在地を測る作業は今日から始められます。