この記事の目次(8項目)
M&A仲介の新人研修の物差しを、社内の慣行ではなく公表資料に置く理由
新人研修の物差しを外部の公表資料に置くと、教える人が替わっても内容がぶれず、新人の到達度を同じ基準で比べられます。中小企業庁の検討会第4回資料2(2026年3月17日)は、中小M&A資格試験(仮称)の想定受験者を、M&A専門業者などに所属して仲介・FA業務に関わる者、またはこれから関わる者としています。これから業界に入る新人は、試験の設計段階から想定されている受験者です。
同資料が示す4科目の出題割合と問数の目安(現状案)は、M&A実務35〜40%(21〜24問)、倫理・行動規範25%(15問程度)、財務・税務20〜23%(12〜14問)、法務17〜18%(10〜11問)です。合格基準の現状案は、総得点70〜80%程度、科目別50%程度の最低基準、倫理・行動規範の禁忌肢の3層です。同資料は、M&A支援機関登録制度の登録機関に対し、自社担当者への資格取得の推奨や、重要事項説明を資格保持者が行うことを求めるなどの対応を中小M&Aガイドラインで検討するとしており、委員からは重要事項説明を資格保持者が行うことを奨励または必須にする提案も出ています。いずれも検討の段階です。
試験日・申込方法の詳細・受験料の金額・受験資格・合格率・受験者数、公式テキスト・公式講座・公式問題集は、2026年10月22日時点で公表されていません。新設の試験なので過去問もありません。研修は試験日から逆算せず、入社日から3か月という社内の区切りで組みます。従事者にとっての資格の位置づけは関連記事に委ね、ここでは研修の設計だけを扱います。
M&A支援機関登録制度との関係——事業者の登録であり、個人の資格ではない
M&A支援機関登録制度は、法人・個人事業主という事業者を登録する制度で、社員個人の資格ではありません。会社が登録支援機関であることは、新人一人ひとりがガイドラインの行動指針を理解していることの証明にはならないため、新人研修は会社の登録とは別に設計する必要があります。
| 項目 | M&A支援機関登録制度 | 中小M&A資格(登録制度の案) |
|---|---|---|
| 登録されるもの | 事業者(法人・個人事業主) | 試験に合格した個人 |
| 登録の要件・流れ | 中小M&Aガイドラインの遵守宣言などを要件に事業者を登録 | 試験合格、誓約書、登録講習の修了、欠格事由に該当しないことの確認(検討会第5回資料2の案) |
| 外部に公表される項目 | — | 登録者検索システムで氏名・登録番号・登録年月日・所属先名(案) |
| 制度の状況 | 2021年8月創設。登録FA・仲介業者は3,399件(法人2,606・個人793/2026年3月9日時点、中小企業庁公表) | 登録の運用は令和10年度以降の想定 |
資格の登録制度の案では所属先名まで公表される設計なので、新人の育成は会社の対外的な見え方とも結びつきます。ただし、資格の合格がM&A支援機関登録制度の登録要件になるかどうかは、2026年10月22日時点で公表されていません。検討会第4回資料2は、重要事項説明を資格保持者が行うことを登録機関に求めることも中小M&Aガイドラインで検討するとしており、委員からは奨励または必須にする提案も出ています。いずれも検討の段階です。
倫理・行動規範(禁忌肢)を最初に教える理由
倫理・行動規範を1か月目に置く理由は2つあります。1つ目は、合格基準の現状案で禁忌肢が総得点とは別の不合格要因として設計されていることです。検討会第4回資料2は、禁忌肢を含む設問で一定数の誤答があれば不合格とする設計を想定し、示された禁忌肢の例は、仲介者が譲り受け側と反社会的勢力との関係を知りながら依頼者に説明せず取引を進める選択肢です。知識の量ではなく行動の選択を問う科目なので、後半に詰め込むより、業務の型ができる前に身につけさせる方が合います。
2つ目は、新人が最初に担う業務に、ガイドライン第3版の禁止事項が直接かかることです。新人の多くは、譲渡の打診、ノンネームでの候補先への提案、契約前の説明の同席から仕事を始めます。この段階で「売上のために許される行動」を先に覚えると、後から行動指針を学んでも判断の癖が残ります。以下は、ガイドライン第3版の概要資料で確認できる規律を、新人が接する場面に当てはめた表です(場面の整理は当サイト)。
| 新人が最初に接する場面 | ガイドライン第3版の規律(概要資料) | 研修で確認すること(当サイト案) |
|---|---|---|
| 電話・DMで譲渡を打診する | 名称や勧誘目的を告げない営業、即時の判断を迫る営業、虚偽・誤認を招く内容は禁止。停止の意思表示を受けたら直ちに停止 | 断られた後の対応と記録の手順を言える |
| 候補先にノンネームで打診する | テール条項の対象は紹介された譲り受け側に限り、少なくともネームクリア後に限定すべき | ネームクリア前後で何が変わるかを説明できる |
| 契約前の説明に同席する | 書面を交付して、仲介者とFAの違い、手数料、担当者の資格・経験年数・成約実績、利益相反が想定される事項などを説明 | 重要事項説明の項目を順に挙げられる |
| 仲介者として双方と話す | 譲り受け側から追加手数料を得て便宜を図る、一方の伝達事項を伝えない・偽って伝える、一方にだけ有利・不利な情報を秘匿するなどは禁止 | 禁止事項に当たる行為を事例で見分けられる |
| 譲り受け側の候補を調べる | 契約履行の意思・能力を調査し、調査の概要を譲り渡し側に説明。不適切な行為の情報を得たら組織内で共有 | 調査項目(財務状況・反社会的勢力該当性・過去のトラブル等)を挙げられる |
新人研修の1か月目は、出題範囲一覧(検討会第4回資料3)で倫理・行動規範の小項目と●印を研修担当者が確かめて重点を決め、該当する箇所をガイドライン第3版の本文で読み、自社の契約書式と照らし合わせる作業に充てます。禁忌肢の仕組みそのものは関連記事で扱っています。
M&A仲介の新人研修を3か月で組む設計(当サイト案)
以下は当サイトが作った3か月の設計例で、中小企業庁や試験の実施団体が示したものではありません。公表資料に研修期間の目安はなく、3か月は4科目を一巡して総合演習まで行える最小の区切りとして当サイトが置いたものです。
| 期間 | 主に扱う科目・論点 | 教材(無料で読める一次資料) | 月末の確認 |
|---|---|---|---|
| 入社日 | 現在地の測定 | — | 無料の20問診断で4科目の正答率を記録 |
| 1か月目(1〜4週) | 倫理・行動規範全体、M&A実務の基礎(仲介とFAの違い、重要事項説明) | 中小M&Aガイドライン第3版、同概要資料、重要事項説明書のサンプル(参考資料11) | 倫理・行動規範の正答率と、誤答の理由の説明 |
| 2か月目(5〜8週) | M&A実務(提案・スキーム、秘密保持契約、マッチングと譲り受け側の調査、基本合意、DD、最終契約と経営者保証、クロージング、PMI、中小企業政策) | 出題範囲一覧の●印の項目、ガイドライン第3版の参考資料 | M&A実務の正答率 |
| 3か月目(9〜12週) | 法務(会社法・民法・労働法・弁護士法)、財務・税務(簿記、財務3表、バリュエーション、役員退職金、株式譲渡の税務)、総合演習 | 出題範囲一覧の法務・財務・税務の項目 | 60問・120分の模試で全科目が50%程度を上回るか |
財務・税務と法務を3か月目にまとめると、未経験の新人はこの2科目で50%程度を割りやすくなります。当サイトの案では、1か月目から毎週少量の簿記・財務3表の演習を並行させ、3か月目は計算問題と法務の条文確認に時間を回します。OJTとの組み合わせは各社の判断ですが、1か月目の倫理を終えてから同行を始める順にすると、現場で見た対応を行動指針と照らして振り返れます。
金融機関・会計事務所などからの中途入社者は、入社日の20問診断で50%程度を十分に上回った科目の期間を短縮します。ただし倫理・行動規範は短縮しません。前職の慣行と仲介・FAの行動指針は前提が違い、経験者ほど自分のやり方で即断しやすいためです。
新人研修の到達度はどう測るか——月末ごとの科目別正答率
到達度は、月末ごとに科目別正答率で測ります。合格基準の現状案には科目別50%程度の最低基準があるため、総得点ではなく「50%程度を下回る科目が残っていないか」を先に見て、全科目が超えた後に総得点70〜80%程度を目指します。
| 時点 | 使うもの | 見る数字 | 判断(当サイト案) |
|---|---|---|---|
| 入社日 | 無料の20問診断(無料会員) | 4科目の正答率 | 中途入社者の短縮科目を決める |
| 1か月目の終わり | 無料の20問診断と面談 | 倫理・行動規範の正答率と誤答の理由 | 50%程度を下回れば2か月目と並行して補講 |
| 2か月目の終わり | 論点別の演習 | M&A実務の正答率 | 工程ごとの弱点を3か月目に持ち越さない |
| 3か月目の終わり | 本番形式の60問・120分の模試 | 科目別正答率と総得点 | 配属判断の材料の1つにする |
無料の診断と模試で解ける問題は全部で78問で、毎回この同じ問題集から出題されるため、2回目以降の模試は同じ問題が多くなります。月末ごとに無料の問題を繰り返すと、点数は問題を覚えた分だけ上がりやすくなります。毎月別の問題で測りたい場合は、法人プランの合格対策パックに含まれる本番模試(60問×8回)と論点別演習を使い分けます。
当サイトの問題は一次資料を根拠に当サイトが作成したもので、公式の問題ではなく、弁護士・税理士等の専門家による全問の確認も完了していません。正答率は新人同士や月ごとの変化を比べる社内の目安として使い、本試験の合否を予測する数字として扱わないでください。
法人プランを新人研修に使う方法——入社時期・中途入社・辞退への対応
当サイトの法人プランは、個人向けと同じ合格対策パック(計900問の演習と解説・弱点分析)を会社が席数単位で購入する仕組みで、講義形式の研修は含まれていません。ガイドラインの読み込みと社内の勉強会・OJTを講義の役割に、法人プランを演習と到達度の確認に充てます。
| 項目 | 当サイトの条件(2026年10月22日時点) |
|---|---|
| 価格 | 1席8,800円(税込)。5席から。追加は1席から同単価。20席以上は個別相談 |
| 支払い | 前払い(銀行振込・請求書発行)。申込前に見積書を提示 |
| 利用期間 | 受講者が招待コードを入力した日から24か月。延長は1席2,980円/年 |
| 報告 | 月1回、受講者別の利用状況をCSVで報告。点数は本人が同意した場合のみ |
| 入替 | 発行から90日以内かつ未着手の席は入替可 |
| 管理画面 | 管理者向けWeb画面は準備中。現在はCSV報告 |
新人研修で使うときの要点は3つです(当サイト案)。第一に、招待コードは入社日(研修開始日)に配ります。利用期間は入力した日から24か月なので、入社前に配ると研修に使える期間が減ります。第二に、発行から90日以内かつ未着手の席は入替できるため、内定辞退や配属変更があっても、着手前なら別の新人に回せます。第三に、中途入社者が出たら追加は1席から同単価で買えます。CSVの点数は本人の同意が前提なので、入社時の研修説明で、月末の正答率を研修担当者と共有するかを本人に確認します。
導入の流れは、問い合わせ、見積書、申込書の返送、請求書、入金確認、招待コードのメール送付、受講者の登録とコード入力、学習開始の順です。入社日から逆算して、見積の依頼は入金確認までにかかる日数を考えて早めに行います。研修費の会計・税務上の扱いは、自社の経理・顧問税理士に確認してください。新人が4人以下なら、5席からの法人プランより、個人で買う方法や無料の診断・模試と一次資料だけで進める方法が合う場合があります。
M&A仲介の新人研修についてよくある質問
新人研修はなぜ3か月なのですか。
中小企業庁の公表資料に研修期間の目安はなく、3か月は当サイトの案です。4科目を一巡し、最後に60問・120分の模試で科目別正答率を確かめるまでを、月ごとに区切れる最小の期間として置いています。財務・税務や法務が未経験の新人は、その科目の期間を延ばしてください。
会社がM&A支援機関に登録していれば、新人は資格の勉強をしなくてよいですか。
M&A支援機関登録制度は事業者(法人・個人事業主)の登録で、社員個人の資格ではありません。会社の登録は新人個人がガイドラインの行動指針を理解していることを示すものではないため、新人研修は別に必要です。資格の合格が登録要件になるかは、2026年10月22日時点で公表されていません。
社内の営業ルールとガイドライン第3版の記述が違う場合はどうしますか。
研修ではガイドライン第3版の記述を基準に教え、社内ルールとの違いは研修担当者がコンプライアンス部門と確認します。中小M&A資格試験(仮称)の倫理・行動規範はガイドライン第3版の行動指針が母体なので、試験で問われるのは社内ルールではなく規範文言のほうです。
中途採用の経験者も同じ3か月研修を受けるべきですか。
入社日の20問診断で50%程度を十分に上回った科目は短縮できます。倫理・行動規範は短縮しないのが当サイトの案です。前職の慣行と仲介・FAの行動指針は前提が違うため、経験者ほど1か月目の照合作業に意味があります。
今から何をすればいいですか。
研修担当者が自分で無料の20問診断を受け、出題の水準と科目別正答率の出方を確かめてください。そのうえで次の入社時期と人数を決め、5席以上になる場合は席数を添えて法人プランの見積を依頼します。
次の一歩:担当者がまず無料診断で出題の水準を確かめ、席数を決めて見積を依頼する
今日できることは、研修担当者が無料の20問診断を受けて、4科目の出題の水準と科目別正答率の出方を自分の目で確かめることです。試験日が公表されていない今は、次の入社時期に合わせて研修の骨組みを先に作れる時期で、入社後に慌てて教材を探す事態を避けられます。無料会員登録をすると、診断と模試の結果が保存され、入社日と月末の比較に使えます。診断の結果で研修の厚みの見当がついたら、新人の人数から席数を決めて法人プランの見積を依頼してください。